進捗状況

2011年12月13日

12/10 実務者の目視選別結果(曲げ破壊強度)の検証実験@京都大学生存圏研究所

レポート=和田洋子(検討委員会 事務局、一級建築士事務所有限会社バジャン)

底冷えする実験室に集まった参加者には大工も多数
最大の関心事は「大工の『見立て』が計測結果とどのくらい合うか」に

12月10日に京都大学生存圏研究所木質ホール1階の実験室で、実務者の曲げに関する目視選別結果の検証実験が行われました。この日は、午前中には京都工芸繊維大学で土壁WGの実験もあり、京都市内2カ所の実験施設ををハシゴする一日でした。(土壁WGの公開実験は、12/17(土)に福山大学実施予定です。詳細はこちら)

どこの実験室も冬は寒く、夏は暑いのがお約束ですが、午後になっても気温がそうは上がらなかった上に、京都大学生存圏研修所の実験室は試験体搬出のためにドアを全開にしていたので、コンクリートスラブの床はさらに底冷えがしていましたた。そのような厳しい寒さの中、大工の「見立て」と科学的な計測結果がどれくらい一致するのかを見届けようと、17名の参加者が、遠くは徳島からも、見学に来てくださいました。半数以上が、大工でした。

「4点曲げ試験法」により
大工の見立て評価でのベスト6とワースト6を計測

まずは、材料品質・接合WGの槌本主査(国土技術政策総合研究所)から実験の主旨説明があり、続いて北守委員(京都大学生存圏研究所)より実験方法について説明がありました。

全24本の試験体のうち、 (1)スパンを飛ばすところに使う (2)重要な接合部に使う (3)曲がりにくい (4)曲げ強度が高い の4つの選別基準にもとづいた大工の見立ての総合評価の高い試験体と低い試験体の合計12本を実験しました。この日に実施したのが必ずしも上位6本と下位6本ではなかったのは、限られた実験室の中で入れ替えが難しい試験体については、事前に実験を済ませてあったたからです。

実験は「4点曲げ試験法」で行いました。実験が始まると徐々に荷重が加えられていきます。突然「バン!」というビックリするくらい大きな音がして破壊が始まります。どちらかというと曲げに強いと評価された材は少しずつ何度も大きな音をたてて破壊されて行ったように思えました。

大工の評価が2番目に高かった材は、上部の繊維が座屈しました。破壊時変形量が150mm以上で測定不能となりました。

大工の「見立て」と実験計測結果の比較

24本のうち、計測上の最も曲げ破壊強度が高かった材(事前実験済)は曲げ破壊荷重が9.5t、破壊時変形量130mmでした。この材は大工には17番人気と評価は高くなかったのですが、それは、端部に節があったためかと思われます。

大工の「見立て」で最も評価が高かった材(事前実験済)の曲げ破壊荷重は9.0t、破壊時変形量は150mmで破壊荷重は堂々2位でした。

反対に計測上最も曲げ破壊強度が低かった材は、曲げ破壊荷重が3.5t、破壊時変形量もワースト1位の50mmでした。この材は大工の評価も下から2番目に低かった材です。

実験棟の外に実験が終了した材を下(引張り方向)を上にして置いてありました。それを見ると曲げ破壊荷重が最も低かった材は丁度曲げが掛かる箇所に大きな節がありました。

大工の評価が最も低かった材の曲げ破壊強度は5.6t(ワースト3位)、破壊時変形量は65mm(ワースト2位)と、やはり実験値も低いものでした。

このように、いくつかの例外はあるものの、概ね、Eディフェンスでのアンケートに回答した大工の「見立て」と科学的な計測は、一致していたと言って良いと思います。これから実験結果を整理し、詳細な結果は今年度の報告書で発表しますので、興味のある方はご覧下さい。

破壊のしかたのパターンを、写真でご覧ください

破壊形状としては、多くのものが、力のかかった下部(写真では実験の時に下になっていた面を上に置いてあるので、上部にあたります)の白太の部分から、繊維が細い槍のような形で剥がれ、そこから繊維方向に対して縦に亀裂が入り、次に中心部に近いところで大きな割れを生じて破壊に至るという、プロセスをたどりました。

しかし、中には目に沿ってバームクーヘンを剥いだような壊れ方をしている材もありました。

7番目に評価が高かった材もまるでせん断破壊を起こしたかのようにも見える、引っ張り曲げによる折損です。前もってミシン目でもつけていたかのような壊れ方です。長尾委員(森林総合研究所)によれば、このような破壊形状になるのは、仮導管のミクロフェブリル傾斜角によるものではないかという事です。

24本もの材を破壊するまで荷重を加えた中で、1本としてまっぷたつに折れた材はありませんでした。改めて大工の見立ての確かさと木材の力を感じた実験でした。

スマートホンやiPadやでもできる
縦震動ヤング係数測定方法のデモンストレーション

実験の中盤で北守委員が、Android携帯やiPhoneといったスマートホン、iPad、iPod touchなどでも簡単にできる 測定縦震動ヤング係数測定方法のデモンストレーションをしました。

まず、アプリケーションをダウンロードしておきます。

・iアプリ for iPad / iPhone/iPod touch : bs‐ spectrum (350円 )
・PCで :Wave Spectora (フリー)

測定方法は、
(1) 材のバランスを取ってスポンジ状の物に載せます

(2) 片方の端部からハンマーで叩いて、もう片方の端部で振動数を拾います
(材料部会小松主査(京都大学生存圏研究所)によれば、叩く強さは関係ないそうです)

(3) 材の長さと密度がわかっていればヤング係数が計算できます

とても面白いデモンストレーションでした。興味のある方はご自分でやってみてください。

2011年11月4日

古材WGより「古材めり込み・仕口接合部公開実験」速報

古材WG担当:棚橋秀光・大岡優(立命館グローバル・イノベーション研究機構)

10月19日午後、立命館大学びわこ・くさつキャンパスのセル実験室にて行われた古材めり込み・仕口接合部の公開実験には7名の方のご参加をいただきました。

この実験は、古材の再利用および現存する古い伝統木造建築物の耐震性能を評価する上で、古材の材料力学的な特性、および古材からなる仕口の復元力特性を調べ、新材との差異を明かにするとともに、古材の設計用データを蓄積することを目的として、10月から2ヶ月かけて行っているところです。対象部材は、川越市の民家(推定築189年)の解体材のスギとケヤキ(当初アカマツより変更)、湖南市の民家(推定築170年)の解体材のアカマツとスギです。

めり込み試験

基本的な材料試験(縦圧縮試験・曲げ試験・せん断試験)に加えて、仕口の復元力特性の最も重要な要素となっているめり込み特性を明らかにするためにめり込み試験を行います。図1の試験要領に示すように、木口の年輪方向別にめり込み試験体Pとその両隣から全面圧縮試験体Sを2個を1セットとして採取し、鋼板で上下から挟んで載荷し、全面圧縮とめり込み(部分圧縮)による剛性・強度・変形性能などを比較します。

図1 めり込み試験要領

当日は、湖南のアカマツの追柾(木口の年輪方向が45度傾斜した断面)のめり込み試験体1セットを用い、万能試験機にて試験体高さが3分の1となるまで、ひずみレベルでは67%の大ひずみまで載荷しました。

図2 めり込み応力度ーひずみ曲線:湘南アカマツ:N1

その結果を図2に示します。赤ラインが全面圧縮S、黒ラインがめり込みPです。PはSより剛性・強度が増加し、いずれもひずみが40%を超えると強度が急増しひずみ硬化がおこる、いわば「ぺしゃんこ」になって「カチカチ」になる現象が明確に現れています。しかも変形性能も新材と比べて劣りません。

仕口にモーメントが作用した場合、仕口のホゾの貫・柱の接触面付近では局部的に、このような圧縮による大ひずみとひずみ硬化が発生します。それが、大変形に至っても仕口の強度が増加する主な要因と考えており、今回の古材でもそのことが確認できました。

写真1 めり込み試験体Pの大変形状況

古材・新材を用いた仕口接合部実験

実際の仕口は目違いや、込栓、楔など複雑な要因が入り込み比較が困難となるため、今回の実験では、最も単純で古材の材料特性が直接発現しやすい通し貫仕口の十字型試験体(表1の新材を含む5種類の組み合わせで図3に示します)としました。古材と新材の材料としての違いが仕口の復原力特性(剛性・強度・変形性能・残留変形など)に及ぼす影響を見るための実験です。写真2に実験のセットアップと載荷状況を示します。

表1 仕口試験体一覧

図3 十字形通し貫仕口試験体 J1-J5

写真2 仕口実験セットアップと載荷状況

載荷レベルは1/240 ,1/120,  1/60,  1/30,  1/20,  1/15,  1/10, 1/5 の8段階正負交番繰返しとし、載荷速度は5mm/min から順次60mm/minまで変化させました。5シリーズの各試験体3体のうち1体は3回正負交番載荷としました。当日は、J3-2の試験体(湖南の柱スギ、貫アカマツ)を1サイクルで載荷し、所要時間は約1時間でした(3サイクルでは約3時間)。

結果をモーメントー回転角で表すと図4のような復元力を示しました。

図4 仕口の復元力特性:湘南柱スギ・貫アカマツJ3-2

1/5の回転角(0.2rad)でも不安定さはなく、復元力は第1象限(柱頭部を左に押す載荷)では1000kNmmで頭打ちのように見えますが、第3象限(右に引く載荷)では1400kNmm以上に増大を続けています。左右で抵抗モーメントが異なる要因は、楔(今回は平行楔で柱面でカット)が貫のめり込み部にはまり込んだ状態で貫について動き、楔の位置によりめり込みの接触長さが変動するためと想定されます。

参考に、時間の関係で見ていただくことができなかった3サイクル載荷のJ2-1の貫の変形状況を写真4に、復原力のグラフを図5に示します。

写真3 J2-1の最大変形0.2radの変形状況

写真4 J2-1の虫食いスギのめり込み変形

図5 仕口の復元力特性:湘南柱スギ貫スギJ2-1

この試験体では、写真4に見られるように貫にかなりの虫食いが見られ、弱そうに見えますが、最大モーメントは900kNmm程度あり、見かけによらず健全な復元力を示し、変形性能は新材に劣らず大きなことが確認できました。

現段階では、古材に関して、新材との差異を結論づけることはまだできませんが、引き続き、めり込み試験・材料試験を行って成果を得たいと考えております。

10/19 古材めり込み・仕口接合部実験@立命館大学

レポート=和田洋子(検討委員会 事務局、一級建築士事務所有限会社バジャン)

10/19(水) に立命館大学びわこ・くさつキャンパス内セル実験室で、棚橋秀光教授(立命館グローバル・イノベーション研究機構)の元、材料部会古材WGが、「古材めり込み・仕口接合部実験」を公開実験として行いました。実験の目的は、古材の強度と変形性能を調べることです。

立命館大学セル実験室

実験のねらいと試験体

まず、木材のめりこみ等を専門に研究されている棚橋先生から、委員会のメルマガでの呼びかけにこたえて集まった7名ほどの見学者のみなさんに、実験の概要についての説明がありました。今回の実験では、伝統的構法の木造の耐震性評価において、古材のめりこみや仕口の復元力特性が新材とどれくらい違うのかを調べるというねらいがあることが分かりました。

見学者に説明する棚橋教授

公開実験の時の試験体は、通し貫仕口試験の試験体に湖南民家の解体スギ(推定築170年)から切り出した100mm角の柱(スギ)と30×100mmの貫(アカマツ)を、めり込み試験に同じ湖南民家の解体アカマツより採取した30×30×90mmと30×30×30mmの木材片を用いました。

古材から削り出した試験体を用いる

仕口接合部実験

はじめに、十字型通し貫仕口試験を行いました。実験のポイントは仕口の評価にあります。そのために、最も単純な形状の仕口(つまり通し貫)を選んだという事でした。本当は楔を入れず、柱とピッタリ同じサイズの貫を入れたかったが、それでは試験体製作ができないので、詰物のような平行楔を入れたとのことでした。

仕口周辺の4カ所に変位計がとりつけられ、柱頭で最大で回転角0.2rad(1/5)まで加力しました。平行四辺形状にかなり変形しながらも、柱も貫もどちらがどちらかを破壊するということもなく、粘り強くもちこたえました。荷重計・変位計で計測されたデータが、パソコンのモニターにグラフとして現れます。

古材木片のめり込み試験
 
次に、木材片のめり込み試験を行いました。試験体は2つの古民家に使われていた材を切り出したそうです。スギ(建物の推定築189年、170年)アカマツ(推定170年)、ケヤキ(推定189年)の4種類の材について、それぞれ木口の年輪方向に対して平行、90度、45度で切り出した30×30×90mmの試験体と両隣から30mmの試験体を用意し、全面圧縮試験と挟み式めり込み試験を行なっているそうです。この日はそのうち、めり込み試験を見学しました。

圧縮ひずみ50%以上程度まで荷重をかけ、どのくらいの圧縮強度があるかを調べます。圧縮試験をすると、材料の性質に応じた、破壊のしかたをします。木材片はカチカチになるまで圧縮されながらも、破壊しないでもちこたえるのが印象的でした。ある程度以上の荷重がかかると、コンクリートの場合一気に破壊され、跡形もなく粉々に飛び散ってしまうそうです。壁土の場合は、土がグシャっという感じで崩れます。

試験体にグリッドが描かれているので、どのように圧縮したが、よく分かる

樹種、切断角度による違いを比較する


今回の実験で蓄積できたデータが、木材の構造的な特性を活かした伝統的構法の設計法構築に役立ち、古民家改修や古材を再利用した建物の耐震性能評価につながることを願っています。

2011年10月31日

キャラバン福岡・熊本、無事終了しました

今年度の検討委員会の主要事業の一つである「全国8ヶ所キャラバンツアー 講演会&意見交換会」が、10/29 福岡、10/30 熊本を皮切りに始まりました。このWebサイトでも順次レポートをしていきますが、まずは速報として、写真を公開いたします。


福岡の会場となった、LIXIL福岡 総合ショールームの4F 大会議室。福岡はNPO法人 森林をつくろう主催の「新・木造の家」設計コンペと同時開催となったため、学生さんたちの姿もありました。


真剣に講演会に聞き入る参加者のみなさん


鈴木祥之委員長による概要説明


設計法部会の齋藤幸雄 主査による「これからの設計法の考え方」の解説


設計マニュアル技術検討WG主査の奥田辰雄による「限界耐力計算運用マニュアル(案)について」の解説


講演会終了後、会場を変え、意見交換会を行いました。


意見交換会の冒頭に、講演会で話し足りなかったことの補足説明をする鈴木祥之 委員長


「NPO法人 森林をつくろう」の佐藤和歌子 理事長


熊本の会場となった熊本県立大学。福岡に引き続き、あいにくの雨天での開催となりました。


講演会の会場となった、中ホール


当日は70人ほどの参加者がありました。


木造住宅の劣化判断及び対策について解説する、藤井義久 材料部会耐久性WG主査


熊本では、会場のスペースに余裕があったため、意見交換会の傍聴をすることができました。

数日内に、各会場での意見交換会の記録ビデオを公開予定です。講演会の記録ビデオに関しては、キャラバン全日程が終了後、公開します。

2011年8月31日

古材WGより「古材強度試験」の速報

レポート= 佐々木康寿(古材WG主査、名古屋大学大学院 生命農学研究科 教授)

我が国には古来より現在に至るまで木材を構造材料として利用してきた長い歴史があります.寺院建築をはじめとして古民家などを含む多くの木造建築には,台風・地震など幾多の災害を乗り越えて現代までその姿を残しているものが多くあります.これらでは,断面寸法の大きい豪壮長大な材料が使用されているため,その視覚的な迫力や質感,使用感,そして長年月にわたる使用が環境保全の観点から好ましいことなどが現代人の関心を呼び,近年,古材を再使用する場合が見受けられるようになってきました.このような再使用の際には,古材の強度性能を適切に判断する必要があるでしょう.

今回の実験は,古材を再利用することを視野に入れ,強度性能を把握することが一番の目的です.8月11日午後に長野県林業総合センター(塩尻市)で行なわれた公開実験には24名の方にご参加いただきました.材料は,長野県の古寺院(築後経過年数:約110年)および滋賀県の古民家(築後経過年数:約170年)で使われていたもの(直径約25~40 cm, 長さ約5~6.5 m,17本)で,樹種はアカマツです.実験の載荷方法はスパン5.8 m(材背の14~18倍)の3等分点4点負荷法による単調増加方式で行ない,荷重と中央たわみを測定しました.なお,公開実験前に試験体の損傷・欠損状況等を観察記録し,予備実験を行いました.その結果,載荷開始から破壊に至るまでに要する時間が5~10分程度となるよう,また,応力増分が一定となるよう,当日は載荷速度(たわみ速度)を20mm/minに設定して実験を行ないました.

曲げ試験の様子を写真で示します.

曲げ試験時の荷重と中央たわみの関係を示すグラフです.破壊荷重は10トンを超えるものもあります.

破壊した時の様子です.これは想像ですが,恐らく解体前の載荷重かと思われる負荷を上回ったあたりからピシッ,ピシッと音をたて,大きく湾曲変形するまで粘りを見せた後,欠損部が原因となる曲げとせん断の複合と考えられる破壊を起こしました.

古材を再使用して建物を修復・設計する際には,弾性係数(ヤング係数)や破壊強度が重要になります.両者の間には緩やかな比例関係があると考えられています.破壊強度を知るためには,今回の公開実験のような材料の破壊試験をする必要がありますが,弾性係数は壊さなくても知ることができます.そこで,弾性係数を何らかの方法で正確かつ簡便に知ることができれば,破壊強度を非破壊的に推定することができそうです.そのためには,今回のような強度実験から得られる弾性係数と破壊強度のデータを多く蓄積すること,非破壊的に破壊強度を推定する方法を開発することなどが重要になります.

学生の感想

●古材は生物材料の新たな利用資源として、とても重要なものだと思います。古材を有効に利用するためにも、古材の特性を知ることは不可欠であり、今回のような貴重な試験に携わることができたことを嬉しく思いました。古材の特性が明らかにされ、私たちの生活に活用されるようになることを楽しみにし、また自身でも目指したいと思いました。

●貴重な古材の実大材の実験に参加させていただき光栄に思います.学生のうちにこのような経験ができてうれしく思います.それと同時に実験を行う難しさも経験でき、それを生かすと同時に今回の貴重なデータから、古材の正しい評価と古材の可能性を研究できればと思います.

事務局による当日のレポートもご覧ください

8/11 古材強度試験@塩尻

レポート=和田洋子(検討委員会 事務局、一級建築士事務所有限会社バジャン)

木曽川の景観を楽しみながら塩尻へ

名古屋方面から「ワイドビューしなの」という特急に乗り、今回の実験が行われる長野県林業総合センターのある塩尻へと向かいました。「しなの」は岐阜の中津川を越えたあたりから、つねに左側に木曽川を眺めながら、急峻な山が迫る木曽谷を走り続けます。上松(あげまつ)駅の手前では、木曽川の水流で花崗岩が侵食されてできた「寝覚ノ床(ねざめのとこ)」という、白い奇岩とエメラルドグリーンの川水とのコントラストが、見事でした。

木曽谷には、線路沿いのわずかな平地以外、田畑はありません。その分、年間降水量3000mmという豊富な雨量と保水力の高い地質のおかげで針葉樹が生育しやすく、近世初期以降、ヒノキを中心とする林業がさかんな地域として知られます。林業に付随し、街道筋には漆器、お六櫛など、木を加工した手工業製品もつくられてきました。木曽楢川、奈良井宿など、旧中山道の宿場町の風情も多く残っており、車窓からも十分に木曽谷の景観や街並を楽しむことができました。

車窓から見る木曽川

古材の強度性能を調べる

今回の実験の目的は「古材の強度性能を確かめること」です。古い民家では、かなり立派な住宅であっても、家族用の居室や収納部分、小屋裏などに、かつては他の建物で使われていたのであろう仕口の跡が残る部材を、構造材に使っていることがあります。これは私の勝手な想像ですが「使える間は使わせていただく」というのが、昔の人の至極当たり前の感覚だったでしょう。

一度建築物に使った木材は、解体処分すれば「廃棄物」となってしまいますが、「古材」として再利用することができます。木に対する謙虚で敬虔な気持ちも大事ですが、それだけでなく、構造材として正しく評価する事も必要です。果たして「古材」は、新しい材と比べ、どれくらい強度の点で劣っているのかいないのか。それを検証することが、今回の実験の目的です。

折れてもなお粘る古材

アクセスが良いとは言えない長野県塩尻市での実験でしたが、なかなか行われることのない古材の実大実験ということもあり、24名もの方が参加し、名古屋大学大学院生命農学研究科 佐々木康寿先生が取り仕切る実験の様子を熱心に見学していました。

実験に使う古材を前に、参加者に説明する佐々木先生

最初に築170年(推定)の古民家から採取した赤松の梁を実験しました。囲炉裏があったのでしょうか、表面が煤で覆われ、真っ黒になっている材でした。佐々木先生の研究室では、試験体は「かつて建っていた方向で実験する」ことにしているそうです。そのため、その梁も「かつての上下」のまま、上に乗る梁が渡っていたであろう渡り顎の部分を上に向けて、実験台に据えられました。

渡り顎のある方を上にして、実験台にセットする。

さて、いよいよ実験開始です。実験が進むに従って、バキッバキッという音が激しくなり、見た目で分かるくらいに曲がって行きます。「これだけ音がしても、なかなか折れないもんだなぁ」と思っていたら、かなり大きな音がしました。どうやらピークを迎え、耐力が下がり始めたようでした。破壊は節のところから起きたようでした。今年1月のEディフェンスでもそうであったように、やはり節は弱点になるようです。

築110年の古寺院から採取したやはり赤松の梁も実験しました。こちらは先程の民家よりも築年代が新しく、材も太いものの、腐朽や虫害と思われる痕があり、表面はかなり傷んでいるように見受けられました。太いだけあって、破壊音も派手です。壊れたかと思うほど盛大な音が実験室に木霊しますが、なかなか折れません。こちらは下側に仕口による大きな断面欠損があったのでそこから折れるかと予想していたのですが、そうではなく、荷重点から折れました。計測器を確認したところ折れ始めた荷重は、90kNくらいでした。

いずれの試験体も、折れてから急に耐力がなくなるのではないのが印象的でした。確かに耐力は下がるのですが、折れながらもかなり粘るのです。おそらく、完全に真っ二つに破断するまで、いくらかの耐力で持ちこたえるのでしょう。古材というまだまだ工学的に解明されていない分野の実験で、大変興味深かったです。工学的な検証は佐々木先生達の解析を待ちたいと思いますが、実務者の方々が古材を使用する際の参考になれば嬉しいです。

本棟造りの堀内家住宅を見学

実験の後は希望者を募り、塩尻駅にほど近い、長野県の民家の典型である「本棟造」の堀内家住宅(国指定重要文化財)を見学しました。屋根はゆるやかの勾配の妻入り、屋根には「雀躍り」という本棟造独特の飾りがついています。

かつては豪農として名を轟かせていた当家の屋敷を守られている堀内さんの説明で、中も見せていただきました。表の列は上手(東)から2室続きの座敷と土間、中列は3間と4間の「おえ」と土間、裏列は「裏座敷」他数室が並んでいました。土間部分から見上げる小屋組や真っ黒く煤けた梁がとても立派でした。

「古材現役」でがんばっているこのような建物のためにも、古材の強度を正しく評価できるような道を開きたいものです。

古材WG主査の佐々木康寿先生による速報もご覧ください

2011年8月16日

振動台実験検証WGより 「通し柱効果に関する検証実験」の速報

速報:山田耕司 (振動台実験検証WG主査 豊田工業高等専門学校)

はじめに

「振動台実験検証WG」では、7/26・28、 8/4・8の4日間、京都大学防災研究所の強震応答実験装置(振動台)を用いて、「通し柱効果」に関する基礎実験を行いました。ここでは「通し柱効果」を図1のイメージで定義しています。他の構造形式で言えば、「連層耐震壁により建物各層の層間変位を均一化する」ことになり、連層耐震壁の役割を大断面の通し柱に期待しています。

実験概要

実験は、径の異なる通し柱を用いた試験体を用意し、100ガルから順次加振していきました。
試験体は、図2に示す2階建て木造軸組(土台仕様)で、平面形状は2間×3間(3,640mm×5,460mm)としました。積載荷重として、各階40kNの錘を載せています。通し柱は4寸もしくは6寸とし、本数は各々4本もしくは6本としました。

耐震壁の上下階のバランスは、2種類:「1階2階のバランスの良い」「1階2階のバランスの悪い」とし、「1階2階のバランスの良い」試験体では1階壁4枚2階壁4枚、「1階2階のバランスの悪い」試験体では1階壁4枚2階壁8枚としています。耐力壁は、荒壁パネルを用いています。胴差は、雇いホゾ(30×120mm)を介して通し柱に緊結しています。

実験結果

今回の実験では試験体を使いまわすため、1/30radで加振を止めています。ただし、一連の実験の最後の加振では、通し柱が折損するまで地震力を大きくしました。実験で得られた層間変形角を図3に示します。

通し柱(4寸)試験体では、通し柱本数、1階2階のバランスの良し悪しに関わらず、同じような層間変形角が計測されました。また、最後の実験では、加振加速度が大きくなるにつれ、1階に変形が集中し、450ガルの加振で、通し柱の1階柱頭部において折損が生じました。

一方、通し柱(6寸)試験体では、通し柱(4寸)試験体程ではないにしろ、通し柱本数、1階2階のバランスの良し悪しに関わらず、同じような層間変形角が計測されました。しかし、図からも分かるように、通し柱(4寸)試験体に比べて、各階の層間変形角の差が少なくなっています。その後、600ガルまで加振しましたが、通し柱(6寸)試験体では通し柱の折損は観測されませんでした。なお、雇いホゾを止めていた鼻栓は曲げ破壊をしたため、柱と胴差の間に隙間が生じていました。

おわりに

以上の実験より、本実験で目的としていた「通し柱効果」が確認されました。来年2月には、石場建て仕様の試験体で同様の実験を行い、石場建て仕様における「通し柱効果」の有無を確認する予定です。なお、実験に際しまして、ご理解とご協力をいただきました方々に厚く感謝申し上げます。

事務局による当日のレポートもご覧ください

2011年8月15日

8/8 通し柱実験@京都大学

レポート=和田洋子(検討委員会 事務局、一級建築士事務所有限会社バジャン)

実験の背景とねらい

これまでに報告されている伝統的木造の建物の地震被害にひとつの典型として、「1階に開口部が多く、2階に少ない」上下階のバランスの悪い建物において、変形のより少ない2階部分が、大きく変形した1階をつぶしてしまうというケースがよくあります。(写真は能登地震の例です)

日当りのよい1階の南面にはどうしても開口部が多く、そして2階には個室をとるために開口部が少ないプランになりがちです。暮らしの必然から現実によく起こりうるこうした1階・2階のアンバランスを、どうしたら克服できるのか? これは伝統的構法の設計法を構築する上での、ひとつの大きな課題です。この課題に対して、1階・2階のバランスが良いとは言えなくても、ある程度以上の径をもつ通し柱が一定本数入っていれば、1階と2階それぞれの層間変位角が平均化されるのではないか?という仮説を立て、実際に振動台の上で試験体を加振して検証してみようというのが、今回の「通し柱の効果の検証実験」のねらいです。

 

6寸角通し柱×4本、1F 2Fのバランスの悪い試験体で公開実験

振動台実験検証WGでは、7月末から、通し柱の効果を検証するための比較検証実験を重ねてきました。これまでに「柱6本(柱=4寸角/6寸角)のバランスが良い試験体/バランスが悪い試験」「柱4本(柱=4寸角/6寸角)のバランスが良い試験体」の実験は終了しており、公開実験となった8/8には「柱4本のバランスが悪い試験体」の実験を行う運びとなりました。

6寸の通し柱が4本入った、1階と2階とのバランスの悪い試験体(2階に壁がより多く入っている)

当日は関係者を含め60名ほどの見学者が来られました。公開実験の開始時刻は午後4時だったにもかかわらず、早くも3時前から数名の見学者が到着し、公開前の加振を興味深く見守っていました。時間になると、まず、それまでに行って来た3パターンの実験での柱の損傷具合などについて、試験体を製作してくださった京都の木村棟梁や鈴木委員長から説明がありました。実験棟に展示されたそれまでの試験体の柱や込み栓などの損傷具合を皆さん間近で観察していました。

7月末から連続して行って来た通し実験の経緯を説明する鈴木祥之委員長

前回までの試験体の柱が解体展示されていた

込み栓や鼻栓の損傷の様子

そしていよいよ、柱=6寸角が4本入った、バランスが悪い試験体」の加振が始まりました。まず、振動台の上に載った試験体を、BCJ-L2波を450galで1回、500galで2回、加振することになっていました。なぜ500galで2回加振するのかをWG主査の山田先生にお聞きしたところ「それ以前の実験で450galで柱の折損が見られたので、詳細に観察をしたいから」とのことでした。

 

600gaで加振しても柱は折れず!

「今日はどこで柱が折れるかなぁ」と言いながら、山田先生は実験を見守ります。公開直前に行われた400gal加振の時ですら、試験体はギシギシと大きな音をたてながら左右に激しく揺れ、荒壁パネルの損傷もかなり進んでいたので「いくら6寸角の檜柱とはいえ、450galでも折れてしまうのでは」と、思わず固唾を呑みます。山田先生から実験の説明がされた後、いよいよ450galの入力となりました。

当然ですが2階はこれまで以上に大きく振られます。例え柱が折れても倒壊はしないと理解しているものの、この状況の中で「あの2階には絶対居たくない!」と思いました。が、450galにも、続く500gal加振にも通し柱は4本とも耐えたので、500galで再加振する予定を急遽変更し、600gal加振に及びました。結局、鼻栓は曲がったものの、最後まで柱が折れることはありませんでした。「柱が折れるのではないか」と予想していた見学者も多かったようで「檜で6寸もあると、なかなか折れないもんだな」という声があちこちで聞かれました。

速報値では600gal加振で1階の変位は236㎜・層間変形角は1/11、2階の変位は112㎜・層間変形角は1/24。すでに100galから600galまで10回の加振を続けていて仕口が緩んでいたこと、荒壁パネルの損傷が進んで耐力が落ちていたことが幸いしたのではないかと思われます。通し柱の効果について、解析の結果を待ちたいと思います。

  
実験に立ち会った方の感想

要素実験の事務局に携わっている金沢工業大学の河原大さんにもコメントをいただきました。


6寸の太い通し柱の効果はかなりあると感じた。4寸試験体と並べて実験していたらもっと感覚的に比較できて、さらによかったのではないかと思う。今後、数値的検討がすすみ、設計や診断における通しの影響の基準が明らかにされていくのを楽しみにしている。

金沢工業大学の学生さんに感想を寄せていただきました。

実大の試験体での振動実験をみるの初めてだったので、迫力がありました。通し柱の断面が大きく、柱の損傷が少ないのがちょっと残念でした。 三浦悠(M2)



通し柱が豪快に折れるのではないかと予想していましたが、折れなかったので、伝統木造の粘り強さを感じることができました。 

塚畑大樹(M2)


学校の勉強では力学モデルから建物が振動時にどのような挙動を示すかと言った理論は学ぶが、実際にこのような大きい試験体での実験を見る機会が無いので良い経験となった。加振後には最大変形および最大層間変形角のアナウンスがあり、6寸の大きな柱を使用した時は500galもの加速度にも耐えることがわかり、実験を見てよかった。 三宅健太郎(M2)

振動台実験検証WG主査の山田耕司先生からの速報も併せてご覧ください!

2011年8月8日

8/2(火) 床構面の面内せん断試験@大阪大学

伝統的構法で建てられた建物は現代の一般的な住宅に比べ柔らかいのが特徴で、合板で作られた床に比べ今回の試験体であるスギ板で作られた床の方が柔らかく、力をかけると大きく変形することが予想されます。設計する時にはこの変形が大きな問題となるため、今回の実験では床の変形挙動を確認することが一番の目的です。

8/2に大阪大学で行われた床構面の面内せん断試験には、合計25名程度の方にご参加していただきました。参加者は、実務をされている方から学生まで多様な方々でした。

実験で用いた試験体は次の通りです。

(試験体A)スパン0.91mの梁に30mmの厚スギ板を直接釘で打ち付けた仕様。

(試験体B)もう少し固くするために、さらに根太を用いて釘留めしたもの。E-ディフェンスで実際に用いられた床はこちらです。

公開実験前に載荷しておき、当日は結果のグラフを見ながら壊れ方の違いなどについて観察しました。

根太なしで梁に直接打ち付けただけの試験体Aは、初期剛性は試験体Bよりも低かったのですが、変形が進むにつれて板と板との摩擦が効いてきたのか剛性が徐々に大きくなっていき、試験体Bよりも荷重が大きくなりました。この時、試験体にはギシギシと板と板とがこすれる大きな音が響いていました。

試験体Aと試験体Bの挙動を比較したグラフです。

今後は転ばし根太などの仕様も含めて実験を重ね、設計で用いるための評価式を構築していく予定です。

【大阪大学大学院 工学研究科  瀧野敦夫】

2011年7月27日

7/22(金)切妻屋根の面内せん断試験@近畿大学

7/22当日は、担当委員を含め、30名ほどの参加となりました。

今回の実験は、両側の軒桁を加力することにより屋根を水平構面として評価する際の床倍率を求めるものに相当します。試験体は、軒方向に4P妻方向6Pで4.5寸勾配の対称切り妻屋根、小屋貫あり瓦荷重ありというものです。

試験前の結果予測、考え方は

「在来工法切り妻屋根では野地板に合板を用いるため、垂木-桁接合部の破壊が支配的となりますが、伝統構法では野地板面のせん断剛性が低いため、小幅板の野地板がずれるのみで、垂木-桁接合部の破壊は見られず、野地板に打った釘のせん断性状からおおむね計算で屋根全体のせん断挙動が推定できる。」

ということでした。実験を行ったところ、当初の予測通り、軒桁間のせん断変形角が1/15[rad.]を超えても試験体に顕著な破壊は生じず、野地板のずれが支配的ということとなりました。

荷重-変形角関係、野地板のずれのグラフです。

今後これを含めた一連の実験を通して、屋根構面の評価式を作成されていくということです。